ヘッダーの写真 撮影/齋藤亮一 風の旅人 復刊2号(46号)より
現象(phenomena)というのは、表層を流れ行く世相のようなものではなく、潜在的に隠れていたものが事象(事件)として浮かび上がってくること。これまで見えていなかったものが、ほのかに見えてくること。だからそれは、次なる現実の兆しかもしれない。
風の旅人復刊第1号のテーマの背景として、当然ながら昨年の3.11以降の日本の状況が意識されています。この極めて困難な時代に、どのような価値軸を作り上げていくべきなのか。諦めて無関心にならず、無気力にならず、生そのものと真剣に闘っていく姿勢。
「修羅」(阿修羅)は、古代インドでは魔神でしたが、古代ペルシャにおいては最高神アフラ・マズダーであり、その激しい闘争は生命生気の象徴でもありました。
善悪の基準は、時代を支配する価値観によって180度転換します。大勢が主張する善に安易に迎合することが、結果的に悪となることを、人類はこれまで何度も繰り返してきました。
また仏教における六道で、修羅道は、四苦八苦とともに歓びもある「人間道」と、使役されるがままの「畜生道」の間に位置づけられています。修羅道は、苦しみや怒りは絶えないものの、地獄ではありません。そこで負う苦しみは、自らに帰結するものであり、それゆえ、自分次第で救いの道が開かれているからです。
現代が困難な時代であることは間違いないでしょう。
しかし、たとえどんな時代に生まれ落ちようとも、生きることは生易しいことではないということを深く自覚したうえで、現在の状況をどう捉えるか。修羅というテーマにはそうした思いがこめられています。
風の旅人 編集長 佐伯剛
1.巻頭ロングインタビュー
「旅する人間は修羅」
語り手/宮内勝典
聞き手/佐伯剛
撮影/古賀絵里子
*日本および世界中を
旅し続けて50年。
旅を通して時代を透視し
続けてきた孤高の作家は、
旅する人間のことを、
修羅と言う。
2.特集(24ページ)
2011 Phenomena
写真・文章/川田喜久治
*2011年3月11日以降、
日本でどういう変化が
起きているのか。
その変化は、10年前の
9.11とも無関係ではない。
戦後から今日まで、常に、
未来を写真で予見してきた
写真家が、今改めて、
この時代を鳥瞰する。
3.特集(16ページ)
森林限界
写真・文章/水越武
*生と死の瀬戸際で、
いっそう美しく輝く生命。
日本から世界の秘境までを
旅し続ける孤高の写真家の
眼差しは、常に、その
瀬戸際に向けられている。
4.特集(16ページ)
Fragments / Fukushima
写真・文章/岡原功祐
*福島の原発事故以降、
福島の地に通い、
そこに生きる人々と
じっくりと向き合う
写真家の眼差し。
5.特集(14ページ)
一山(高野山)
写真・文章/古賀絵里子
*高野山に何年も通い、
この地に存在する物、
人、風景に深い愛情
を注ぎながら、
信仰とは何かを
問い続ける写真家。
6. 特集(14ページ)
日本の地下世界
写真・文章/内山英明
*2011年3月11日直前まで、
日本の原子力関係施設等に
深く潜入し、
撮影を続けていた写真家。
日本の最先端技術への、
期待と不安。
単純に割り切れない現実。
7. 特集(14ページ)
マーヤ〜カトマンズ〜
写真・文章/大山行男
*富士山で知られる
写真家が、
大型カメラを持って、
夜のカトマンズを彷徨い、
聖と俗が溶け合った
混沌のルツボの中で、
人間の生命・宿業と
赤裸々な魂で向き合う。
◎命そのものへと還る道ーーーーーーーーーーーーー 茂木健一郎 homepage
◎寡黙な妣たちの国ーーーーーーーーーーーーーーーー 今福龍太 homepage
◎めをとじて、みみをすまし、からだの声をきけーーー小池博史 homepage
◎踊り続ける生命・踊り続ける炭素ーーーーーーーーー--蛭川立 homepage
◎はるかな歌ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー--姜信子 homepage
◎エスーSーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー田口ランディ homepage
◎マチゲンガの暮らしーーーーーーーーーーーーーーー関野吉晴 homepage
◎修羅になろうーーーーーーーーーーーーーーーーーーー管啓次郎 homepage
2003年4月の創刊時、風の旅人は年に6度発行し、一般の書籍流通で販売する雑誌として制作しました。しかし、一般雑誌のように読み捨てずに手元に長く置いていただけるというご意見もよくいただきました。その為、装丁は、もう少し写真集に近づけ、表紙は2段階、本紙は1段階、紙を厚くしました。発行も、年に二度と限定し、これまで以上に、一冊ごとに、じっくりとお付き合いいただきますよう、お願い致します。
風の旅人は、創刊から第44号まで、書籍流通を通して、全国の書店で販売してきました。しかし、現在の書籍流通は、一日あたりの新刊本の発行点数が異常に多いため(200〜300)、書店で対応できず、書店に届いても段ボールが開封されずに戻されることが多くなっています。単行本書籍の場合は、何度も書籍流通に入れ直すということができますが、風の旅人のような定期刊行物は、一度戻ってきたら終わりです。そのように返本されるものも含めて印刷しなければならないというのは非常に不合理です。広告収入に頼った雑誌の運営の場合は、それでも構いませんが、そうでない場合は、運営にも深刻な影響を与えます。その為、今後は、書籍流通を通さず、直接販売を行いながら、新たな流通の仕組みを考えていきたいと思います。